カテゴリー: 服の話

MASU / エムエーエスユー
Zip-Up Clover Coat

　“服好きが作る服”　　　

ダブルフェイスのリバー仕立てというのはとても手間が掛かる。ダブルフェイスの生地というのは、二重織、ボンディングの2種類存在する。この生地は二重織で作られている。
手間の掛かったこの生地を手作業または特殊な機械で、生地と生地の間の糸だけ、1センチほど縫い代の部分だけ解く。
解いた部分を折り返し、アイロンを掛け、手作業で縁を縫い合わせていく。

学生の頃から個人的な趣味の一環でたまに洋服を作っていて、去年の年末にたまたま安くでカシミヤのダブルフェイス地が手に入ったので手縫いでダブルフェイスの羽織を作ってみた。もちろん慣れていないせいでもあるけど、指が千切れるかと思うくらい過酷な作業だったのでこのコートの分量で縫い合わすのが如何に大変なのかが良く分かる。

図解で説明しているサイトなどもあるので、ダブルフェイス　縫い方、で検索してみて欲しい。

こういうダブルフェイスのアウターはほっこりしててとても可愛い雰囲気が出る。先に説明したよう、その裏側ではなかなかの苦労が存在していて、それなりの価格帯になってしまう。この手の商品の値段が可愛くないのはそのためである。

そんな面倒なことをしてまで得られる事は、生地が2枚合わさる事で生まれる接着芯では表現出来ない自然はハリと綺麗なドレープ。

縫い目による着た時のストレスが少なく、生地全体で包まれるような軽さと暖かさ。

バイカラーで仕立てることで生まれる視覚的な面白さと、袖をロールアップをした時の美しさ。

そのお陰で多少袖が長くてもなんとでもなる。

このコートはクローバーのスタッズやクロスモチーフのジップなど、縫製に掛かる手間だけで無く、オリジナルの副資材を用いている。決して安くは無いが、ここまでの作り込みでこの価格に抑えるのはSOHKIという国内外のブランドを支えるアパレルメーカーを母体として運営しているからこそ可能である。

MASUというブランドはポップコーンニットのようなアイキャッチでメンズウェアで見た事が無い素材やテクニックを用い、豊かな表現方法で熱狂を生み、あらゆる物事から新しい価値を見出している。勿論その側面は、MASUの根幹となる部分であり、僕自身いつもそれを楽しみにしている。

しかし、それ以上に洋服一つ一つの真面目な作りに共感を覚える。後藤さんの言う熱狂というのは、所謂バズと呼ばれる一過性の流行りでは無く、もっと純粋な、少年が綺麗な石を見つけて喜ぶ瞬間みたいなことを熱狂と言っているのだろう。洋服はとても真面目に作られ、ファッションという現象が好きなだけの人間ではこうはならない。服そのものがほんとに好きなんだなということが良く分かる。得てして、こういう人は、街を歩いているおばさんやおじさんを見ていても、雨の日の濡れたアスファルトを見ていても、映画を観ていても、友人と遊んでいても、漫画や本を読んでいても、美しい物を見ていても、或いは醜い物を見ていても洋服の事を考えている。常に洋服が頭の中の真ん中にあって、生活の殆ど全てが洋服と繋がっている。

洋服の作り手や過去に生み出された洋服に対する愛情や深い理解、そういった物が礎となって表現力が担保されているんだなとこのコートから感じさせられる。

MASUの服は破壊し否定しようとしているのでは無くて、着る人の立場に立って可能性を拡げてくれるような優しさを感じる。生活の殆ど全てが洋服と繋がっている人が作る服だから生活を楽しくしてくれる。

このコートを羽織ればそれが分かるし、羽織らなくても手に取って見るだけでなんとなくそれが分かると思う。

MASU
Zip-Up Clover Coat Size : 46
Price : 99,000 yen tax included